教育対談 現在、そしてこれから。小学校教育の目指す所とは。

宇宙飛行士 毛利 衛 × 瀬⼾SOLAN⼩学校 理事長 長尾 幸彦

世界をフィールドに活躍し、宇宙・科学はもちろん
教育分野へも見識の広い毛利 衛さんと
英語・ICT・探究を学習の軸に据え、
今までにない
小学校教育を切り拓く長尾 幸彦理事長。
これからの日本と世界、2人が描く教育観。
子どもたちの未来を見据えた教育の在り方を語る
対談が実現しました。

2021年4月、様々な想いを乗せて出航した
瀬戸SOLAN小学校

毛利 :
自然の木を基調とした、明るい校舎ですね。天井板がないのもいい。災害対策でも重要です。
長尾 :
お褒めいただき嬉しく思います。子どもたちの安全・心地よさを考えています。敷地内には「SOLANの森」もあります。私自身の経験から、子どもは自然にふれて育って欲しいと考えています。
毛利 :
私も外でよく遊びました。敏捷性などは子ども時代に鍛えられたと思います。瀬戸SOLAN小学校という校名は宇宙少年ソランからですか。
長尾 :
SOLANのSOLAは宇宙の宙(そら)、LANはLanguageとLocal Areaを意味します。宇宙少年ソランはもちろん好きでしたし、私自身が宇宙、そして毛利さんのファンであり、宇宙飛行士にも興味があります。
毛利 :
宇宙飛行士という仕事は危険と隣り合わせです。危機管理には五感+第六感の感性が重要です。感性は大人になってから鍛えることもできますが、子ども時代、特に親がどうあるかが重要です。親が意識していてもいなくても、子は親を真似ます。親の感性が子どもにそのまま伝わることがほとんどだと思います。
長尾 :
私の教育への思いも、教育関連の仕事をしていた親の影響が大きいですね。「教育への貢献をもって社会の発展に寄与する。」これは運営会社である株式会社教育システムの社是であり、その思いの結実としてこの学校をつくりました。

社会の発展に寄与するために、
子どもをどう育てるか

毛利 :
文部科学省の中央教育審議会の委員をはじめ教育行政にもかかわってきましたが、国が定める義務教育の方針は、社会にとって、日本にとってどういう人間が必要かです。しかし、私立校を選ぶ家庭は、何か自分らしさを求めて来るわけですよね。
長尾 :
本校では、これからの日本人として世界に通用する力、グローバルシチズンシップという感覚を育てたい。そのために何が必要か考えています。今の日本の教育にはアウトプットが欠けています。論理的に考え、自分の意思を世界で表現できるように、本校は探究・グローバル(英語)・ICTを教育の素地にしています。
毛利 :
3年ほど前から小学校で、今年度から高校でも探究型授業が始まりました。ところが現場の先生は「探究」の本質的な意義と目的をよく理解していないのが実情です。この学校ではどうですか。先生方はどう理解していますか。
長尾 :
おそらく多くの学校の探究型授業は、与えられた課題について子どもたちが考えたふりをしているだけと私は思っています。それを探究とは言いません。探究型授業で大切なのは、子どもたちが主体的に課題設定することです。先生方には、そこにじっくりと時間をかけ、自分一人で達成できるよう指導いただいています。低学年においては、「考えるワザ」の修得としてベン図やフィッシュボーン図が使えるように指導を行います。思考の基礎基本なくしては中身のないアウトプットになりますので。見学の方には「これ社会人ではじめて学びましたが小学生からやるのですか。」と驚かれますが、1年生の子どもが「これベン図で分類してみよう」とか「視点は何?」とか議論していますよ。
また、探究の授業では、友だちは自分と違う考えを持っている、「違って当たり前」と理解することも多様性を認めるという視点で大切です。本校では、もちろん一斉指導もありますが、個別最適化を志向しており、やっていることはかなりバラバラです。それを先生がサポートする。子どもが主体的に動けるよう、聞かれたら答えるという形を採っています。瀬戸SOLAN小学校のスタイルが、10年後は日本の教育のスタンダードとなることを目指しています。

今の世界と、
子どもたちが大人になったときの世界は違う

毛利 :
10年後の日本は、少子高齢化により、経済的には世界への影響力がかなり落ちていると思います。その中で日本人として国際的に尊敬され、貢献できることは何か。「日本ってすごいな」と自ら思える、そういう社会にするためには何が必要でしょうか。10年後、瀬戸SOLAN小学校で学んで良かったと卒業生が思えることってどういうことだと考えますか。
長尾 :
私は、主体的に考えられることが重要になると思います。毛利さんが著書に、マネジメントとリーダーシップとフォローシップについて書かれていましたよね?それがものすごく腑に落ちました。リーダーシップってどう醸成されるのかについては私自身も本校も模索していますが、日本人はフォローシップがすごく上手だと思うんです。その一方で、リーダーになっていくことは、なかなか出来ていない。そう強く思っています。これから先、主張が多い世界の人たちの中で主体的にきちんと発言できることは大切になるはずです。
毛利 :
私は中学・高校時代に一度は違う文化圏に行ってみるべきと思います。他の国に行ったら受け取られ方が真逆のこともあると気づける。国際化というのは、自分が日本人である意識があって初めて成り立ちます。もう昔のような欧米社会に向けてだけが国際化の時代ではありません。中国とどう関わるか、東南アジアやアフリカ諸国とどう関わるかが現実です。実際に彼らと同列で、共に働き、現場では日本人が特別という時代ではない、国際化の次のグローバル化が進んでいます。
一方、小学生の時には、肯定してあげること。あなたがやりたいことはすごいねと言ってもらえ、自分が正しいと意識させ自信を持たせることが大事ではないでしょうか。義務教育では、挑戦が嬉しいという感覚を持たせることが一番重要なのではと思います。

子どもが幸せであることを第一に

長尾 :
私の師である山口紀生先生が作られたLCA国際小学校(相模原市)と本校は理念を共通にしますが、もっとも大切なことは、「子どもが幸せである」ということです。幸せとは、その子が、その子らしく個性を発揮できること。あなたのままでいいんだよと認められ、その個性を伸ばしていけることです。本校には、他の学校でちょっと枠に入らない行動をしたために学校が嫌になってしまった児童が少なからずいます。枠に入らない子を潰してしまうのがはたして教育だろうかと思います。
毛利 :
その通りだと思います。そういった子はきっと能力が高いと思いますよ。そんな環境の瀬戸SOLAN小学校で育った子どもに将来どんな人になって欲しいと思いますか。
長尾 :
小学校に続き中学校が2025年に開校しますが、中学校卒業時には「進路指導が不要な子ども」つまり、こういう自分になりたいと親に説明できる子どもを育てます。さらに成長すると、自分の強い意思とリーダーシップを持ち、日本に留まらず地球を救うような人になって欲しいです。
毛利 :
日本も世界も変わっていきます。では10年、20年後の世界に通用することって何だろう、と考える。それは様々なことに対応できる感性、変われる力と同時に心が折れない弾力性ではないかと思います。「みんな同じ人間だ」という考えは相手の意を汲む柔軟性を養うことに通じます。また「その考えでいいんだよ」と肯定されることで、心が簡単に折れない、自分に自信を持つようになると思います。
長尾 :
恐竜は滅亡しました。生き残った種は変化に対応できたものです。子どもたちも与えられた環境で自分はどうあるべきか自分で考えて対応する、主体的に変われることが大事と知っていて欲しい。そのためには自己育定感を高め、自ら挑戦できるよう育てることが大切だと信じています。

これからの学校の姿とは

毛利 :
この学校にいたから自分・人を理解し、社会が見えるとなるといいですね。今まで偏差値重視で自分の意思がない人が増え日本をダメにしてきた。10年後には学校の偏差値じゃない、どんな生きがいを持つ大人になるかを目標にすることが当たり前になっていると思います。
長尾 :
本校では、保護者はパートナーと位置づけています。授業料を払ったから学校にお任せで、全部やってくれるよね、という保護者と本校は合わないと思います。本校を信頼してくださる保護者と共に、これまでにない新しい教育を作りあげていきたいですね。
毛利 :
親が一緒に作りあげる、それはすばらしいですね。

PROFILE

毛利もうり まもる
宇宙飛行士・日本科学未来館名誉館長

1948年北海道生まれ。85年に日本初の宇宙飛行士に選抜される。宇宙船「スペースシャトル・エンデバー号」で92年と2000年、無重力実験と地球観測を行う。2003年「しんかい6500」で深海実験、同年南極大陸で日食観測。2007年南極昭和基地にて地球環境授業。現在先端科学技術者の人材育成と教育に努めている。

長尾ながお 幸彦ゆきひこ
瀬戸SOLAN小学校 理事長

1965年愛知県生まれ。瀬戸SOLAN小学校の運営母体である株式会社教育システム代表取締役。祖業である教材販売業から、学校ICT機器、保守受託、ソフト開発を主力とする会社に育て現職。教育ICT分野の長年の経験から自治体の教育CIO補佐官や教育委員会のアドバイザーも務める。